ロンドンの地下鉄は物語の入口だった

旅記録

2年前、私はイギリスに住んでいた。
といっても、留学のために1年間ヨークシャーで生活していただけなのだけれど。

その間は、毎日朝から夜までシェイクスピアやウルフの作品と格闘し(その度にノックアウトされつづけ)ていたけれど、休暇になれば待ってたとばかりに机を離れ、文学を巡る旅へ出掛けていった。

その旅のなかでも特によく訪れたのがロンドンだ。

名所を見て回るだけでも二週間は楽しめるだろう人気の観光地。
でも私にとってのロンドンの魅力は、あらゆる文学作品の源であるところ。
街を少し歩けば小説の始まりの舞台に、物語の主人公が歩いた小道に、本が執筆された作家の家に行き着く。

そして、ロンドンの地下鉄は物語の入口だった。

ロンドンでは欠かせない身近な交通手段である地下鉄。

だけど…いや、だからこそ、そんな身近な地下鉄から物語が始まることで、異世界へ自然に入り込むことができるのだと思う。

ベイカー・ストリート駅 (Baker Street)

英国一有名な名探偵シャーロック・ホームズが住んでいるのはベイカー街221B。

残念ながら本当のベイカー街221Bには別の人が住んでいるようだけれど、その近くには「シャーロック・ホームズ博物館」があるとか。

そこへ行くべく、ベイカー・ストリート駅に降り立つと、いきなり目の前にホームズ。

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ファンにはたまらないであろうホームズのお出迎え。
(ファンじゃないけどわたしもテンション上がった。)

それにしてもこの地下鉄の雰囲気にホームズのシルエット…良い。

パディントン駅 (Paddington)

地下鉄は、電車もプラットフォームもとても狭い。

そこに半巨人なんて紛れ込んでいたら…想像すると楽しいけれど、きっと現実には迷惑千万だろう。

『ハリー・ポッターと賢者の石』で、ハリーとハグリッドがダイアゴン横丁での買い物から帰るときに登場するのがこのパディントン駅だ。

変な形の荷物をどっさり抱え、膝の上で雪のように白いふくろうが眠っている格好のせいで、地下鉄の乗客が唖然として自分のことを見つめていることにハリーはまったく気づかなかった。パディントン駅で地下鉄を降り、エスカレーターで駅の構内に出た。ハグリッドに肩を叩かれて、ハリーはやっと自分はどこにいるのかに気づいた。
「電車が出るまで何か食べる時間があるぞ」
(J.K.ローリング『ハリー・ポッターと賢者の石』 p.130)

それから二人はハンバーガーを買って食べるのだけれど、ハンバーガーショップ、本当にパディントン駅構内にある…。

写真を撮ってこなかったのが大変悔やまれるけれど、確かバーガーキングだったような…。
「ああ、ハリーたちはここでハンバーガーを食べたのね…」としみじみ。

そして、パディントン駅といえばもちろん『くまのパディントン』。

地下鉄を降りて地上に上がると、解放感あるアーチ状のプラットフォームが。

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そして端の方でとてもさりげなく座っていたのが…

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パディントン!

さりげなさすぎ。
もっと目立つところにいるのかと思った…。

でもちゃんと “Please look after this bear” のタグもついているし、ちょっと困って途方に暮れた顔もかわいい。
そりゃ連れて帰りたくなるよね。

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近くにはこんなベンチも。

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それからパディントンショップ。絵本やぬいぐるみ、鉛筆、ノート…とお土産らしいお土産がずらり。
ポストカードとステッカーを購入。

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このゆるい雰囲気がなんとも可愛い。

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ショップ内にもパディントン。
こっちはちょっとリアルだった。

キングス・クロス駅 (Kings Cross)

多数の地下鉄や鉄道のラインが交差する主要ターミナル駅、キングス・クロス駅。

地下鉄を降りて地上階へのエスカレーターを上ると、もうハリー・ポッターの世界。

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よし、9¾番線を探して写真を撮るぞ!と思ったら、

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あった。
9¾番線とはまったく違う場所に。
プラットフォームの中ですらない。

お土産屋さんやレストラン、カフェがひしめく駅のロビーのような場所の一角に、半分壁に埋め込まれたカートが、あった。

観光客の人たちがずらりと列をなす先で、コスチュームを着たスタッフさんが何やら盛り上げながら写真を撮ってくれる。
みんなノリノリでポーズをとっているので、この時だけは杖をかかげてハリーになりきっても全然恥ずかしくない。多分。

ちなみにスタッフさんはショップのカメラでしか撮ってくれなかったので、わたしは後ろに並んでいた人にスマホで撮ってもらった。

隣のショップではハリポタグッズ、特に9¾番線グッズを販売。

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この内装がなんとも…!
ハリポタの世界に入り込んだみたいで、この空間にいるだけでわくわくする。

世界中からファンが集まるのも納得。

番外編:ミュージカルの世界へ誘う地下鉄構内のポスターたち

地下鉄の通路は、分岐したり曲がったり、まっすぐの道が延々と続いたりしながら、ロンドンの地下を張り巡らしている。

それから通路は暗い。
薄明かりにぼんやりと照らされたコンクリート剥き出しの通路をずっと歩き続けていると、まるで血管かアリの巣の中にいるような気分になってくる。

そんな地下鉄の通路だけれど、唯一壁だけは派手な色彩のポスターたちで飾られている。
ファッションブランドの広告、映画のポスター、クリスマスにはニコニコ笑顔のサンタクロース。(コーラの広告?)

それだけなら日本の地下鉄も大して変わらないけれど、私がロンドンでとても印象に残ったのはこれ。

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この、ミュージカルのポスター。

ミュージカルの聖地ウェストエンドが位置するロンドン。

とてつもない数のミュージカルポスターを、ロンドンの街なかだけでなく街の下でも見ることができるとは…。

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そして圧巻なのがこの光景。

特別長いエスカレーターの両脇にずらりと並ぶ、ポスター、ポスター、ポスター…!

エスカレーターによってはミュージカルのポスターだけが並んでいることも。
こういう景色を見ていると、「ああ、演劇の国、ミュージカルの街だなぁ」と感じる。
実際にこれから観劇するわけではなくても、観劇する時と同じ高揚感に満ちてくるのが不思議。笑顔の主人公たちに「わたしたちに会いにおいで」といざなわれている気がする。

これも一種の物語への入口と言えるのかもしれない。

おまけ

ロンドンの有名デパート「リバティ(Liberty)」には、地下鉄のグリーティングカードが売られていた。

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とても身近だけれど、さまざまな物語がつまっているロンドンの地下鉄。

探せばまだまだ隠れた物語が見つかるかもしれない。

書籍情報

ドイル, アーサー・コナン『シャーロック・ホームズの冒険』深町眞理子(訳), 東京創元社, 2010.
ローリング, J.K.『ハリー・ポッターと賢者の石』松岡祐子(訳), 静山社, 1999.
ボンド, マイケル『くまのパディントン』松岡享子(訳), 福音館書店, 2002.

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